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「本格小説」 その2

NY駐在の日本人達の間で、伝説となった人物、東(あずま)太郎。





一文無しで、アメリカ人のお抱え運転手から始まった彼の人生は、日系企業の修理工、セールスマンを経て、独立してヴェンチャー・ビジネスを興し、ミリオネアへと成り上がって行きます。

彼がお抱え運転手として渡米して来た頃から、父を通して彼を知った水村氏は、折りある毎に、彼のアメリカン・ドリームを人づてに聞いて成長します。
その後、三冊目の小説の執筆に行き詰まっていた時、見知らぬ若者の訪問を受け、そこで渡米前の東太郎の生い立ちを聞くという、天からの贈り物を授かるのです。

彼女の三冊目の小説の題材は、彼女が子供の頃慣れ親しんだ、古き良き日本。
そして、東太郎の生い立ちの背景は、彼女が書き残したいと思っていた、その時代そのものでした。

物語の語り部は、信州から出て来た土屋冨美子。
進駐軍のメイドから、宇田川家の女中となり、測らずも当時の上流階級である三枝三姉妹と身近に生きることとなります。
それと共に、戦後の中国からの引き揚げ者達の貧しい暮らしも、隣り合わせとなり、その中で生きる幼い東太郎と出会います。

物語の中心は、寂しさの中から始まった、宇田川家の二女よう子と、東太郎の恋。
引き裂かれた二人の幼い恋は、成人し、東太郎がアメリカで成功した後、よう子の夫雅之を加えた、奇妙な形で継続して行きました。

二人だけではどうしても成就できない、不安定な恋愛。
それは、寂しく、激しく、周りを巻き込みながら、いつか均衡が崩れる時へと進んで行くしかありません。

     あたしが死んでも、殺したいって思い続けてちょうだい。

東太郎に殺したい程愛され、雅之に支えられたよう子は、不安定ながらも幸せだったと言えるでしょう。

二人を支え、傍観し続けた冨美子ですが、時々垣間見える彼女の言動は、少々不可解でした。
終盤明らかになる事実に、その不可解さが意味をなして、ページを遡り、個々の場面をもう一度読み直したくなりました。

「愛されないことは、不幸だ」と呟きながら、冨美子を羨ましく思う、三枝三姉妹の一人、冬絵。

登場人物達の寂しさと、時代が移り変わる寂しさが交差した、長い長い物語でした。


この古き良き時代を象徴するのが、舞台となる軽井沢です。
父母が大好きな軽井沢の、いつもの宿泊場所や、お気に入りのイタリアンレストラン等が実名で出て来て、とても懐かしく思いました。

東太郎には、実際のモデルがいます。
その方自身が手記を出しており、モデルであることを認めているそうです。
しかし、小説の中で、水村氏自身が述べているように、「書き進むにつれて、原作からは懸け離れたものとなっていった」のだとか。
モデルの方も、「本格小説」を、そのまま自分に重ねられると困惑する、とおっしゃっているそうです。

事実と虚構の線引きは難しいのですが、E.ブロンテの「嵐が丘」のような本当にあった話を、リアリティを持った「近代文学の本格小説」として書くことの難しさを、水村氏自身述べられていました。



昭和初期から、戦後、高度成長期を経て、バブルを経験し、失われた時代へと続く日本の歴史は、生活様式も考え方も激変した時代だったと思います。

高度成長期以降、アメリカで暮らし、明治昭和初期の文学に埋もれていた水村氏からすると、バブル以降の日本・日本人は、軽薄であり、存在そのものが希薄に見えるのかもしれません。

冬絵は、現代の子供達を、「どんどん小粒に、軽薄になって行く」と言います。

そして、最後に

     「(日本が)こんな国になるとは思っていませんでした」「もっとましな国になると思っていた」

とつぶやく、東太郎の言葉は、そのまま水村氏の言葉なのだと思います。

狂った様なバブル期と、その後の閉塞感。
実際にバブル期を生きながら、私自身違和感を感じることが多々ありました。

今、経済成長の只中にある中国と比較しながら、自問自答することもあります。

そして大震災。。
震災によって、また経済の閉塞感が進むとの見方もありますが、私はそうは思いません。

震災時に触れた、人々の優しさや思いやり。
個々の日本人は、変わっていなかった。。
一番大事な部分は、脈々と、人々の中で息づいていたのだと思いました。

震災で辛い思いをしたたくさんの人々は、更なる高みへと上って行くと思います。
そして、人々を支えたいという思いが、日本中にあります。
十年後、二十年後、日本はきっと良くなると、信じられるのです。
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